平成28年度事業報告書
社会福祉法人同愛会 その2
報告書には津久井やまゆり園事件に関連して、「日本知的障害者福祉協会会員施設が入所施設の虐待問題に正面から取り組まない」と記されています。個々の会員施設だけではなく、日本知的障害者福祉協会はオピニオンリーダー団体として、この事件を繰り返さないための組織的な方針を立て、それを会員施設に提起していません。もちろん業界団体だけに責任を押し付けるのは間違いで、個々の入所施設が事件に向き合って対策を示さなければならないのは言うまでもありません。では会員施設の同愛会の事業所はどうでしょうか?日の出福祉園では管理者からこの事件について全く話はなされず、お話し会や読書会など職員、市民の自主的な集まりでその話し合いがなされました。組織的になされたことは夜間の施錠の徹底、それも行政指導にもとづいたものでした。福祉協会会員施設を問うならば、まず同愛会の事業所はどうだったのか問われるべきですが、報告書にはそれがありません。やまゆり園事件については、2017年実践報告会やピープルファースト運動を支援してきた横浜事業本部の「ピープルファースト全国大会 in 横浜」の詳細な報告があり、当然ながら事件について触れられています。しかし、こと東京事業本部にあっては、やまゆり園事件などまるでなかったような総括となっています。
報告書の最大の問題点は、津久井やまゆり園事件を契機とした精神保健福祉法「改正」問題に一切言及されていないことです。津久井やまゆり園事件は、日本の医療・福祉政策を社会防衛政策へ変質させてしまう転換点となろうとしていますが、報告書にはその現状認識がまるで見られません。
知的障害者福祉は精神医療・精神障害福祉と密接に関わっています。それらは近接領域にとどまらず互いに重なり合っています。これは精神医療、福祉サイドからすれば自明のことなのですが、知的障害福祉サイド、特に入所施設中心の施設福祉の立場には十分に認識されておらず、自分たちの仕事の領域として問題化されることがありません。入所施設が中心の知的障害者福祉研究をうたう日本知的障害者福祉協会が、路上や地域で暮らす福祉サービスとつながっていない人たちや精神科病院で暮らす人たちのことをネグレクトしている現状や、それとは対照的に、入所施設利用者以外の家族も組織している全日本育成会が反貧困運動やホームレス支援など施設福祉の枠を超えた多様な社会運動活動家を機関誌に登場させていることに、それは顕著に現れています。(林)